どんな時にも感謝の気持ちを忘れてしまってはいけないと
その人は笑顔で何度も教えてくれた。
年寄りが余計なことを言っていると思うだろうけど、なんて付け足しながら。
彼女はその時、痴呆の症状がはっきりと出始めた頃で、
色々なことを忘れてしまうから同しことを言っているかもしれなくてごめんなさいね、
なんてちょっとだけ哀しそうに、それでも笑顔で言っていたことを良く覚えている。
遠縁の叔母、にあたる人、というには家系図的にも距離がありすぎる人だけれど、
暫く一緒に暮らしていたことがある。
遠くない過去にたくさんの辛いことがあって、それでもカラカラと良く笑っていてくれた。
疾病のせいで記憶に障害が出ていると自分で理解しておられ、
『きっと哀しいことを思い出さないように神様がしてくれたのかもしれないわ』、と
あるとき小さく呟いた声が耳に残っている。
今は施設に入所している彼女にもう2年ほども会ってはいないけれど
彼女のくれた言葉を忘れたくないと深く思う。
ひとり時間~静模様~更新しています。
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